※この記事は2018年に開催された「幼い子への接し方としつけ」講演&相談会の内容を抜粋し編集したものです。
※英語・中国語版あり
赤ちゃんが育つ道すじ
子どもが育つ道すじは、3歳がひとつの切れ目、切り替え点になっています。
なぜかというと、日本の場合、集団に参加し、同年代のお友達と出会って昼間の数時間を一緒に過ごす、つまり子どもながらに社会生活が始まるのが、3歳を過ぎた頃なのです。
そして0歳から3歳までの成長は、家庭がベースとなります。では3歳までの子どもは、家庭でどのように育つのでしょう。
0歳〜1歳は身体が大きく成長する時期
赤ちゃんというのは、どこの国でもどの民族でも、生まれた時からすでに自分の力で育つ力を持って生まれてきます。
言葉が違う、文化が違うということで、大人の生活は扇を開いたように多様だけれど、子どもの成長においては、共通することがたくさんあります。
子どもの共通言語は「遊び」です。
言葉が通じなくても、遊びを通してコミュニケーションできる。
初めての場所で出会っても、遊びを通して関係を作っていける。
子どもたちは、柔軟な適応力を持っているのです。
人間の赤ちゃんは、生まれた時は歩くことも、自分で食べることもできないという意味で「生理的未熟児」と言われています。
自然界で生活していくための体の基本が育つのが1歳代で、それまでに゙大体歩けるようになります。性格的に用心深い子は、体の条件が全部整って歩けるようになっても、自分で「もう大丈夫」 と思うまでは歩き出しません。そういう場合、歩きだすのが1歳から1歳半ぐらいまでかかることもあります。
1歳〜1歳半ぐらいのもう一つの特徴は、言葉を喋れるようになることです。「パパ」「ママ」「わんわん」「ニャンニャン」といった発音しやすい言葉は、その頃に出てくるようになります。
1歳半健診の時に「言葉がいくつ喋れますか?」と聞かれます。
その時期には、3つぐらい喋れればOKです。
なぜかというと、「あ」「う」などは赤ちゃんの頃から声を出しますが、「パパ」「ママ」といった言葉は、唇や声帯、顎などの「構音器官」という、音を構成する器官が連携して発するものなのです。その連携ができてちゃんと言葉が作れるようになったならOK、というのが1歳半なんです。だから本当のことを言えば、1歳ぐらいの時期なら喋れる言葉は1つでも大丈夫なんですね。
「あー」と言っていたのが「ママ」となり、「わー」と言っていたのが「わんわん」となる。それは、大変な技術の進歩です。
何語で育てるか?
この時に、お父さん・お母さんのどちらかが日本の文化で育っていないご家庭の場合、何語 で育てるか迷う方がとても多く、保健所でも「何語で育てたらいいでしょうか」といった相談がよくあります。
こういう場合に考えていただきたいのは、子どもに最も多く接する人、多くの場合はお母さ んですが、お母さんが自分の気持ちや感情を頭で考える時に、何語で喋って考えているか、 ということです。
お母さんが嬉しい時、悲しい時、悔しい時に、何語で喋るか。複雑なことを考えるときに何語で考えているか。そういったことを共有するのが子どもにとって一番豊かな会話になるので、そのあたりのことも「何語で育てるか」を考える大事なポイントになります。
日本語については、成長していく段階で集団生活に入ったり、テレビや映画を見たりすると浴びるほど聞くので、日本語の文化圏で生活していれば自然と身につくものです。
2歳頃から始まる「いたずら」
2歳半ぐらいまでに「パパお仕事」のように、言葉が二つつながる二語文を喋り始めます。
簡単な文章を喋れるようになり、おしゃべりができてコミュニケーションが上手になってくる。人に話しかけて相手の話を聞くといったやり取りが楽しくなってくるのが、2歳代です。
1歳代で歩けるようになり、2歳になると言葉を使ったコミュニケーションが豊かになる。 歩けて喋れるようになると、子どもは「いたずら」が大好きになります。
子どもの「いたずら」とは何かというと、大人のやっていることの真似なのです。
お料理やお洗濯など、お母さんのやることを真似して生活習慣を覚えていきます。
子どもの育つ力というのは、真似する力なのです。
これを堅苦しい言葉でいうと「学習」ですが、基本は真似をすることです。
おままごとやごっこ遊びは、まさに真似の総集編。
その時に言葉も覚えていれば、お母さんやお父さんの人に対するご挨拶の仕方や、お父さんやお母さんがどんな風にお話をするかなど、全部聞きながら、単語だけではなく文法も覚えます。それで生活習慣も覚えていきます。
子どもがそうやってお父さんやお母さんのやることを全部真似する中で、真似しても大丈夫 なこと、例えばごっこ遊びでお料理を作る真似をしたりすることは「遊び」になります。
しかし例えば、お父さんがタバコを吸う姿を見るとタバコを吸う真似をしたくなる。これはもう「いたずら」になってしまいます。
お父さんがちょっとライターを操作すると子どももライターを触りたくなる、これも「いたずら」です。
子どもにとっては、お料理もタバコも、真似をしているという意味では全く同じです。ただ、やって良いことと悪いことの区別がまだつかない。これが2歳代です。
3歳を過ぎると、自我がしっかり根をおろす
3歳になると、自我の発達が見られるようになります。自我が子どもの精神世界にしっかり根付くので、やっていいこと、悪いことの管理や理解力がだんだん身に備わってきます。
その代わり、自分で考えて判断するので自己主張も強くなります。
日本の言葉で「三つ子の魂百までも」という言い方がありますが、3歳を過ぎた子どもは自分をしっかり持って100 歳になるまで自分で判断しながら自己主張し続ける、そういう存在に育っていきますよということを言っているのだと思います。
体がまず育ち、それから言葉を獲得する。そして自我が育ってきて自分という存在を元に、日々の暮らしを展開し始める。自分の判断がしっかりできる時期になったら集団に入っ て、親元を離れ、親の方を向かずに生活するのもほぼ大丈夫になってくる。
そういうことで、多くの子どもが3歳から集団生活を始めることになります。これが、3歳までの子どもの成長の道筋なのです。
つづく
内田良子氏(児童心理カウンセラー)
73年より東京都内数ヶ所の保健所にて相談活動を続け、98年から「子ども相談室・モモの部屋」を主宰し、不登校、非行、ひきこもりなどのグループ相談会を開いている。立教大学非常勤講師、NHKラジオの電話相談「子どもの心相談」アドバイザーも経験。全国各地の育児サークル、登校拒否を考える親の会、幼稚園などでも講演多数。著書『カウンセラー良子さんの子育てはなぞとき』、『幼い子のくらしとこころQ&A』『登園渋り登校しぶり』