2018年国連カウンターレポート:日本の不登校

 

2018年国連カウンターレポート:

日本の不登校

内田良子

 

1.不登校をめぐる現状

 

日本では1991年以降義務教育課程の小学生・中学生が1年間に連続または断続で30日以上学校を欠席したことを「不登校」と言う(ただし、病気と経済的理由で欠席したものは除く)。それ以前(19661990年まで)は、年間50日以上の欠席を「学校ぎらい」と分類し「登校拒否」と表現した。そこでは、登校拒否(不登校)は生徒本人に登校拒否を起こしやすい性格傾向あること、及び家庭での養育態度、親の性格、家族関係に原因があるとした。

 

文部省及び文部科学省は1966年以降、登校拒否・不登校の統計をとり、主に子どもと保護者を治療教育の対象として「不登校対策」を講じてきた。図表1によるように、不登校の子どもの数は1966年度間には小学生4,430人中学生12,286人だった。それが、2016年度間には小学生31,151人中学生103,247人となり、こうした増加傾向は1980年以降続いている。これに対して文部省は「学校不適応対策調査研究協力者会議」を設置し、その答申を受けて「登校拒否はどの子にも起こりうる。『いじめや学業不振、教職員に対する不信感など学校生活上の問題』が登校拒否の原因となる」などとし、その認識を改めた。

 

その後文科省は「学校不適応対策調査研究協力者会議」の答申を受けて不登校の早期発見、早期学校復帰対策をとった。具体策としては学校に「心の居場所」づくりをし、スクールカウンセラーの導入などをおこなった。しかし1990年以降、少子化の加速にもかかわらず不登校の児童生徒数は増え続けた。その原因にはいじめや教員の体罰を含む厳しい指導、部活における先輩後輩の封建的な人間関係などがあげられる。子どもたちは、こうしたいわば被害現場である学校から、離れる(欠席するなどして身を守ること)ことを必要としていた。しかし、被害の実態を把握せず対策もとらず、子どもたちが学校を休むことは受け入れられなかった。不登校に至る原因を解決しないまま早期に学校に復帰させる対策を実施したことが、増加の一因にある。

 

子どもたちは学校を休めないことに追いつめられ、教育行政は学校を休む子どもの統計上の数を減らすることに奔走しさらに子どもを追いつめたのである。

 

 

 

2.日本の不登校の実態

 

文部科学省の委託研究「不登校に関する実態調査」は、中学3年生で不登校をした子どもたち当事者に対し5年後の追跡調査を過去2回(2001年度、2014年度)実施している。また、同省は毎年「学校基本調査」と「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」を実施している。このふたつの調査からみえてくるのは、不登校当事者である生徒と学校教職員の間に大きな認識のズレがあるという点だ。

 

2014年度「不登校に関する実態調査」の生徒たちの回答と同年度「児童生徒の問題行動等調査」の学校報告の回答は以下のようになる。

 

1位.いじめを含む友人関係 生徒52.9%(学校報告16.5%)、2位.勉強がわからない 生徒31.2%(学校報告9.3%)、3位.先生との関係 生徒26.2%(学校報告1.6%)、4位.クラブ活動・部活動 生徒22.8%(学校報告2.2%)、5位.入学、進学、転校 生徒17.0%(学校報告2.9%)、6位.学校のきまりなどの問題 生徒10.0%(学校報告1.8%)。

 

 注目すべきは先生との関係で、不登校になったと回答した子どもたちは26.2%に対して、学校報告は1.6%となっている。この差はどこからくるものであろうか。毎年報告される文科省の「児童生徒の問題行動等調査」では、不安などの情緒的混乱28.1%、無気力26.7%が上位にあげられていることに注目したい。多くの場合子どもたちは「登校をしなければならない義務」「進学や進路に不利になる」といった保護者や教員の登校圧力を受けながら登校し、心身ともに傷つき疲弊してから不登校になる。そのため休み始めたときには無気力で情緒的に混乱した状態になっている。それは不登校に至るまでの心身の疲労が原因であり、それを不登校の原因とするところに誤りがある。

 

文部科学省の不登校対策は学校からの報告に基づいているため、不登校の解決からはほど遠い。少なくとも不登校をしている子どもたちが登校できない理由を解決・改善しようとする取組みにはなっておらず、早期学校復帰策をすればするほど、不登校の子どもが増え続ける結果を招いている。

 

 

 

3.問題点① 不登校への医療介入と危うい投薬問題

 

いじめ、教師の体罰や懲罰的な指導、部活などで傷ついた子どもたちは、学校での居場所を失い心身ともに傷つき疲弊して登校しぶりやさみだれ登校が始まる。学校は早期学校復帰対策にシフトしているため保護者に「学校と親が手を組んで子どもを登校させるように」と圧力をかけ、クラスメートや担任、スクールソーシャルワーカーが家庭訪問をしたり、民生委員や地域の教育支援員などが登校時に迎えに来るケースがある。

 

追いつめられた子どもたちは心身の不調(腹痛、発熱、頭痛、その他)が出て、小児科など医療機関を受診するが、いわゆる内科的な病気ではないと言われ、担任、スクールカウンセラーや養護教員などから、精神科や心療内科を受診するようにすすめられるケースが増えている。その結果、登校しぶり・さみだれ登校の段階から睡眠薬、抗不安薬、抗うつ剤、抗精神病薬などが処方される小中学生が増えている(第23章「発達障害」参照)。文部科学省の早期学校復帰策では学校にある原因はそのままにして登校圧力をかけ続けるため、学校を休めない子どもたちに処方される薬の量や種類が増え、副作用に苦しむ子どもたちが出ている。いじめに傷つきや登校圧力で孤立し情緒不安定になった子どもが、親に激しく抵抗し生活習慣に従わないため、その言動が発達障害と誤診されるケースがある。

 

学校で人間関係に傷つき、学校に居場所がない子どもたちは学校から避難し、安全な場所(自宅)で休むことができると心身の症状は軽減・消失するが、不登校を受け入れる学校や保護者は少ない。「学校があると知っていたら生まれてくるんじゃなかった」、「学校に行かなきゃいけないなら、お母さんのお腹の中で死んじゃえばよかった」、「学校を退学したい」、「学校は何のためにあるの?」などと親に訴える子どもの声が各地から聞こえてくる。子どもたちは「誰のための学校か」を根本から問いかけ、安心して休むことのできる居場所を求めている。

 

 

 

4.問題点② 18歳以下の自殺-学校を休めないこどもたち-

 

いじめや体罰、先生の人格を傷つける指導などで深く傷ついた子どもたちのなかには、学校は義務教育なので休めない所と思いこみ、学校を休まず(休めず)にいることがある。無理な登校を重ねて心身ともに限界を越えたときに命を断っていく子どもたちがいる。とくに注意すべきは図表2によるように、過去40年間の日別自殺者数を見ると長期の休み明け(夏休み明け、冬休み明け、春休み明け、ゴールデンウィーク明け)に命を断つ子どもが多いことである。逆に長期の休み中の自殺は少ない。また、いじめや厳しい指導や体罰など教室で深く傷ついている子どもたちのなかに、心的外傷から字が書けない、教科書が読めないなどの状態になる子どもがいる。ストレスがかかる中間テスト、期末テストの前後は、長期休みに次ぎ命を断つ子どもたちが出る。

 

3万人をこえた日本全国の総自殺者数は国の対策により減少しているが、中学生の自殺は2011年から増加に転じている。遺書などに「学校を休みたい」「いじめがなければもっと生きたかった」と書き残している子どもが何人もいる。不登校は命を守る非常口になっている。

 

 

5.問題点③ 教育機会確保法(不登校対策法)の成立

 

文部科学省の不登校の早期学校復帰対策はほぼ出尽くし、手詰まりの状況に陥った。この間、2014年には不登校の子どもたちの居場所を運営する市民や研究者が、国会の超党派のフリースクール議員連盟に働きかけ、「フリースクール法」の制定の動きが始まった。これは、主に不登校の子どもが通うフリースクールへの財政支援を求める目的があった。

 

しかし、議員立法の内容に不登校をしている子どもや保護者、市民などからの反対の声があがり、法案は二転三転したあげく、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」通称「不登校対策法」が201612月に成立した。法律では「不登校児童生徒」が「児童生徒」と分けて定義され、不登校は個人の問題とされた。不登校の子どもに不登校特例校がつくられ、いじめ、先生の厳しい指導や体罰、部活など学校教育の被害者である子どもが通常学級から分離される道がつくられた。

 

さらに、不登校の子どもへの切れ目ない組織的支援という名目で、「児童生徒理解教育支援シート」が作成されることになった。これは、7日連続欠席したら教育支援シート作成をし、子どもの個人情報と家庭状況などを学校の関係者全員が共有し、教育支援センター等で管理されるものである。「一度不登校をした子どもは、再発する可能性がある」という理由から、校種間をこえ高校卒業まで個人情報が収集され、その後も5年間保存されることになった。子どものプライバシーと子どもの権利の侵害である。

 

2016年9月法案成立を目前に出された文部科学省の「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」の中ではただし書きつきで「校長の責任において進級や卒業を留保するなどの措置をとるなど、適切に対応する必要があること」と明文化された。不登校にかかわる当事者や保護者、市民などの取組みや運動で、不登校を正当な理由として進級・卒業が今まで認められてきた既得権、不登校の子どもの権利の後退が心配される。

 

そもそも子どもたちは学校で学ぶ権利を持っているが、学校に通う義務はない。学ぶ権利を侵害されて不登校になった被害者の子どもにとって最善な利益とは何か、子ども本人に聞く必要がある。

 

法律が成立後、沖縄県で不登校の子どもの保護者に対し、このまま休みが続くと卒業認定ができない旨のただし書きつきで学校出席の督促状が出された。

 

 

 

6.課題

 

子どもたちは安全を保障された学校で安心して学び成長できる環境を必要としている。テストの成績などで競争させられ序列化された上で校則で管理される息苦しい学校生活から解放され、成長発達に応じた人間らしい学びの場を求めている。しかし文部科学省の不登校対策が早期学校復帰策と不登校の数減らしを目的としており、子どもはいじめなど心身両面への被害や人権侵害を回避するために学校を休むことができない。子どもたちが安心して学校を休む権利を行使し、休んだ後にいかなる条件もつけられずに学校に復帰できることを保証する学校教育環境を整備することが優先的に取組むべき課題であろう。

 

そのためには「不登校特例校」や「児童生徒理解支援シート」が盛り込まれた不登校対策法(教育機会確保法)については早急に廃止にすることが求められている。

 

学校へ行くことが子どもの義務だと誤ってすりこまれ、子どもたちは学校を休むことができないと悩み苦しんでいる。学校信仰の強い日本社会で生きていく展望や意味、自己の存在の価値を見失い命を断つ子が後を断たない。全ての子どもたちに国連「子ども権利条約」特に第31条「休み、遊ぶ権利」を知らせ、存在の危機に際し「学校を休むこと」を自己決定できるよう保障するとともに、不登校に対する社会の誤解や偏見を払拭し、不登校をした子どもたちへの進学・就職への不利益な処遇を是正していくことが求められる。

 

 

 

①つくる会(Citizens’ and NGOs Association for the U.N. Convention on the Rights of the Child,

 

Japan)が国連子どもの権利委員会に11月に提出したAlternative Report, The Childhood Impoverishment in Japan under the Neo-liberal and the Neo-conservative Momentumの一部であること。

 

②つくる会では6月から英文報告の頒布を開始します(17,000円)。お申し込みはfax:03-5927-1152まで。