※この記事は2019年に開催された「幼い子との付き合い方としつけ」講演の内容を抜粋し編集したものです。
※ 英語・中国語版あり
しつけには、お手本が一番
言葉の理解力がまだ幼い子どもは、
言葉を通しての理解が難しいので「こうしなさい」「ああしなさい」と言葉で言われてもピンときません。
しつけには、お手本が一番有効です。
目の前で親がスプーンやフォークを使って食べる。
その見よう見まねで技術を習得していくから、一緒に食事を食べるというのはとても大事なんです。
ところがお父さんは忙しくて食事の時間にいることはまずない。
お母さんは子どもの食事の世話で動き回ってて一緒に座って落ち着いて食べられない。
「うちの子はすぐ立ち歩いて落ち着いて座ってません」というんですが、
よくよく聞いてみたらお母さんがお子さんのサーブで立ち歩いてるんです。
お母さんが一生懸命台所から運んできたり、子どもがこぼしたものを拭いたりと世話に専念してしまうと、
子どももお手本に合わせて動き回ってしまう。
そういう時は、汚れたものの片付けはなるべく後にして、子どもと一緒に座って食べてください。
隣りあわせは見えにくいので向かい合って、お母さんが落ち着いて座って食べていれば
子どもも見よう見まねで真似てとにかく座ります。
こぼしながらも、お母さんを見ながら食べるようになる。
子どもは大人のすること、親のすることをお手本にするのです。
子どもは大好きな人をお手本にします。
だからお父さんお母さんは、自分のやることなすことを子どもは見ていて、
吸い取るように覚えていく人たちなんだということを知っておくと、しつけの80%は完成です。
お父さんお母さんが言葉遣いに気をつけて、食事の場でも丁寧にして、
日々の生活を「自分のことをお手本にしている子どもがいるんだ」と思って過ごしていると、それを習うので、
自ずとしつけは身に備わっていきます。
朝起きた時に「おはよう」、夜寝る時に「おやすみなさい」、「お父さんおかえりなさい、お疲れ様」と
何気なく使う言葉や、人をねぎらうとか、生活の区切りをつけるとか、そういうことを身につけていきます。
しつけって、実は叱ることじゃないんです。お手本が大事ということです。
また、子どもは自分より上の人をとても素敵だなと思うので、兄弟のいる子はお兄さんお姉さんをモデルにします。
身近に良いモデルがあるということが、しつけの基本です。
“怒る、叱る、叩く”ではなく、できたことを褒める
しつけは叱ることと思っている方が多いですね。
怒ること、叱ること、叩くことというのはしつけの方法の一つではあるけれど、
実は短絡的で効果が薄いものなんです。
怖い声で怒鳴られ、厳しく叱責されると、怒られるのが怖いからやめるけれど、このことをやっていいか悪いか、
じゃあどうしたらいいかということについての情報が少ない。
怖いからやめるというのでは、その時はやめるけどまた同じようなことを繰り返して、
叱る人がいないところではやるようになります。
家庭の中で家族と暮らす、社会に出てからは社会のルールやマナーの中で暮らすということで
人間は社会を形成しています。
社会の中で「やっていいことと悪いことをどう判断し、理解し、自分のものにするか」ということを
子どもに教えてあげるのがしつけです。
お父さんお母さんの真似をしてちゃんとやっている時に「上手に食べられてるね」
「お着替え後ろ向きだよ、お母さんの服を見てごらん、こういうふうにタグがこちら側になるでしょ」、
自分でちゃんとやったら「上手に着れたね、その通りでいいんだよ」と言ってもらえる。
お手本で示されると「こうすればいいんだ」ということが非常にわかりやすいんです。
やり方を伝えるということと、ちゃんとできていることを認める、褒めるということをすると、いろんなことが気持ちよくその子の判断力、理解力になっていきます。
そういうことで、しつけの基本は、できたことを認める、褒める。
1回褒めたら終わりじゃなくて「今日もちゃんとできてるね、それでいいのよ、だんだん上手になってきたね」と
繰り返し認めてもらうことで自信を持って自分のものにするということがあります。
子どもにとってはお父さんお母さんに認めてもらう、尊重されることが自尊の感情になります。
そうするとまた「周りの人がやっていることをよく見てみよう」「その通り真似してみよう」ということになり、
成長や場に合わせていろんなことを取り入れていくチャンネルが開いていくのです。
虐待の入り口にならないように
では怒鳴っちゃいけない、叩いちゃいけない、大声を出しちゃいけないのかというと、緊急の場合は必要なんです。
「こら危ない!」とか、とっさに大きな声で叱責する、止めるということは必要。
急ブレーキをかけるようなものです。
絶対駄目ということではなくて、本人が怪我をする、他の人に危害を加える、ものを壊すなど、
本当に危ないとっさの時はそういう飛び道具が必要ということで、例外的な方法として使っていくということです。
人を叩いて相手を制することができるということは、ある意味手っ取り早い方法を手に入れるわけです。
だから一度暴力を使うと、繰り返し使うようになる。
叩くことで相手を制し、恐怖感を持って支配する。
そうすると、子どもは自分の身の安全、心の安全を守るために恐怖感を持って従います。
手っ取り早くて有効だと暴力を使っていると、気をつけないと虐待への扉を開きます。
叩くのは例外的なこととして使うということを肝に銘じておいていただきたいと思います。
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アドバイザー:内田良子氏(児童心理カウンセラー)
73年より東京都内数ヶ所の保健所にて相談活動を続け、98年から「子ども相談室・モモの部屋」を主宰し、
不登校、非行、ひきこもりなどのグループ相談会を開いている。立教大学非常勤講師、NHKラジオの電話相談「子どもの心相談」アドバイザーも経験。
全国各地の育児サークル、登校拒否を考える親の会、幼稚園などでも講演多数。著書『カウンセラー良子さんの子育てはなぞとき』、
『幼い子のくらしとこころQ&A』『登園渋り登校しぶり』