【小児科医監修】「病原菌」は特別な場所にしかいない②[講演&相談会抜粋]

【小児科医監修】

「病原菌」は特別な場所にしかいない②[講演&相談会抜粋]

 

※この記事は2018年に開催された「ワハハ先生に聞く 子どもの病気への考え方と対応のしかた」講演の内容を抜粋し編集したものです。

英語・中国語版あり

 

 

病原菌は、特別な場所にしかいない

 

病原菌というのは、主に生き物にくっついています。

例えば、今は個人のうちで食中毒が起こることはないだろうと言われています。

あるとすると、蜂蜜にボツリヌスという菌が入ってる場合ぐらいですが、とてもまれなことです。

1歳以下の子がボツリヌスを体内に入れると命に係わることもありますが、1歳を過ぎると平気になります。

こんな特別な菌で起こる中毒以外では、ほとんど個人のうちでは起こらないのです。

 

ウイルスによる食中毒は、生牡蠣を食べた時に起こるノロウイルスでの中毒くらいのもので、

昔言っていたような食中毒はほとんどなくなりました。

時々起こるのは集団食中毒で、旅行に行くときのお弁当なんかでなります。

 

朝早く、4時5時に作った弁当を冷蔵庫に入れずに放置されてあるわけですね。

たまたま作った人が指を怪我していて、その傷にブドウ球菌などの菌が入り込んでいた時に、

初めてこういった中毒が起こります。

 

人間の体は、普通は常在菌という普段ついている菌に守られているから、病原菌は入り込めないんです。

ただ傷がついたところは、そのバリアが薄れているので入り込む余地があり、

そこから増えることはあります。

 

この頃は、おにぎりを作ってもうつるなどと言って手袋をして作っているようですが、

そんなことをしなくてもおにぎりから菌が入ることはゼロと言っていい。

病原菌は特別な場所にしかいないんです

 

 

腸内細菌ってすごい

 

私たちの周りにいるのは圧倒的に有益な菌か、無害無益な菌のどちらかです。

それなのに、これまで病原菌だけを恐れてそれをやっつけるための対処をしてきたけれど、

ようやくこの頃になって私たちの体の中にある菌についてわかるようになってきました。

 

腸内細菌を研究するには、腸の中の細菌を取りだして培養して増やさないといけないんですが、

空気が嫌な菌が多く、外に出すと死んでしまうことが多いんです。

そんな中、光岡知足さんという人が、ものすごい苦労をしてなんとか培養して研究してきました。

 

腸内細菌に善玉菌、悪玉菌、日和見菌といった名前をつけた人ですが、

悪玉菌というのは、いかにも悪そうに見えるけれど、

私たちの体の免疫力が落ちた時に初めて悪いことをするのであって、普段は体内で悪いことはしていません。

日和見菌についても今のところ、何をしているかよくわからないだけで、

いずれ人間にとって有用な菌だとわかるだろうともいわれています。

 

人間の細胞の数はだいたい37兆くらいと言われていますが、

腸内細菌の数は少なくとも100兆くらいはいると言われています。

 

「あなたの体は9割が細菌」という本も出ているんですけど、要するに私たちは、

細菌が人間の皮を被ってるようなものと思っていいというか、そういう状態になっているんです。

 

腸の中にいる細菌の種類は500種類~1000種類くらいいて、その構成は一人一人違うんです。

指紋はひょっとすると同じ人が世界のどこかにいるかもしれないけれど、

腸内細菌の構成は絶対に同じ人はいないと言われています。

 

この腸内細菌の構成は、日によっても変わると言われています。

病気の時と健康な時の構成も違うし、太っている人と痩せている人の腸内細菌の構成も違うので、

腸内細菌を変えることで確実なダイエットができるのではと期待されています。

 

また、善玉菌は乳酸菌とビフィズス菌とだいたい2種類ですが、

赤ちゃんの頃は圧倒的にビフィズス菌で、乳酸菌はすごく少ない。

年老いてくると、ほとんどビフィズス菌はおらず、乳酸菌ばかりになる。

赤ちゃんにビフィズス菌が多いのは、ビフィズス菌が母乳、ミルクといった乳成分を

消化する力を持っているからなんです。だから乳児期はビフィズス菌が多いというふうになっているのです。

そのあと食べるようになるとビフィズス菌は減って、乳酸菌はあまり消化する力を持たないので、

バクテロイデスとか、日和見菌に当たるものが増えてきて、それで消化したりするようになります。

 

私たちの体というのは、いろんな状態に合わせて変わっていきます。

だからそれを変えないほうがいい。

そういうことで、腸内細菌は非常に大事なのです。

 

 

 

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医師:山田真(ワハハ先生)

東大医学部卒。小児科医として約50年診察を続けている。八王子中央診療所所長。

「子どもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク」代表、

育児専門誌「ちいさい・おおきい・よわい・つよい」編集協力人。

「自由に生きる、笑って生きる」をモットーに、親しみやすい町医者として、

子育て中の親の強い味方。

『初めてであう小児科の本』『小児科BOOK』『子どもに薬を飲ませる前に読む本』

『育育児典』『はじめてのからだえほん』など、育児書から絵本まで著書多数。