※この記事は2018年に開催された「ワハハ先生に聞く 子どもの病気への考え方と対応のしかた」講演の内容を抜粋し
編集したものです。
※ 英語・中国語版あり
吐いたり下痢をするというのも、発熱同様に体を守るために起こっていることで、
特に止めないほうがいいということがわかってきました。
突然吐く原因は、大抵はウイルス性胃腸炎
子どもの場合、突然吐き出すというのは、ほとんどがウイルス性の胃腸炎です。
大人の場合は胃や腸の病気など色々ありますから心配なものもあるんですけど、
子どもの場合、突然吐いたというのはほとんどが心配ありません。
ただ半日とか1日お腹が痛いと言っていて、その挙句に吐いたというときは、
時々虫垂炎(盲腸)だったりすることがありますから、そういうときは気をつけたほうがいいですね。
それから子どもが頭をぶつけるのは日常的にあることで、それで頭の中で出血するということはほとんどないけれど、
頭をぶつけてから4時間か5時間経ってから急に吐いたら、これは脳外科に行ったほうがいい。
それ以外の場合、突然夜吐き出して4回も5回も吐いたと言ったら大抵はウイルス性の胃腸炎です。
4種類くらいウイルスがありますが、胃腸炎を起こすノロやロタといったウイルスは有名ですよね。
胃腸炎を起こす4つのウイルス
ノロはアメリカのノーウォークというところで最初に見つかったウイルスで、
もともとノーウォークウイルスと言われていたんです。それが長いのでノロという名前になって急に有名になって、
有名になると同時に怖がられるようになってしまったけど、全然怖いウイルスではありません。
ノロの親戚みたいなよく似たウイルスで、日本の地名がついてるウイルスがあります。
サポといいます。昔は札幌ウイルスと言われていましたが、ノーウォークウイルスがノロに変わった時に、
これがサポになりました。
幼児の吐いたり下痢したりするお腹の風邪と言われるものの5%くらいはサポが原因だと言われていますけど、
全然有名じゃないですね。
次にロタです。これが有名になった頃にはみんなが「ロタですか?」って聞いて、
「ロタじゃないよ」というと「ああそうですか」と安心するんだけど、どれでも同じようなものです。
もう一つ、アデノウイルスがあります。これはプール熱などと言われる有名なウイルスですけど、
アデノって何種類かあって、目に来るものや喉に来るものや、目と喉の両方に来るものや、お腹に来るものなど、
いろんな形があります。
ウイルス性の嘔吐は、空気感染しない
こういうウイルスは空気感染しません。
保育園や幼稚園で子ども同士うつるというのは普通ないと考えていいです。
大人が持ち運んでいるんです。
大人が子どもの吐いたものや下痢したお靴なんかを取り替えるときに手について、
その手で他の子を触ったりするとうつるのです。
つまり大人が手洗いしていればいいので、子ども同士でうつるというのはあまりない。
手についたウイルスが口に入ってくる、あるいは保育士さんが他のものに触って、
それを他の子が舐めたりしてうつったりします。
口から入ると、私たちの体はウイルスや細菌が入ってくると出さなきゃいけないというので反応します。
それが吐くということです。
嘔吐から下痢へ
「5、6回吐いたあとはけろっとしちゃったんです」ということで子どもが病院に連れてこられることがありますが、
ケロッとしちゃったということはほとんどウイルスが出ちゃったということです。
吐いてウィルスを外へ出すことに成功したということですから、もうそれでいいんです。
吐いている期間というのは、長くても半日くらいです。
そうするとウイルスが出るか、ここからウイルスが頑張ってもっと奥へ入っちゃったかで、
胃くらいの所でウイルスがごちゃごちゃしているとお腹が痛いとか気持ちが悪いとか、そういうことを言います。
それよりもっと下がって腸にはいると、腸は頭がいいので、
「あ、ウイルスが入ってきた、これは早く外へ出した方がいい」と判断して、今度は腸の壁から水分を出します。
それで下痢になります。
下痢も三日くらい治らないと「下痢がちっとも治らないんです」と言われるんですけど、
まあ5日とか1週間とか続くと考えた方がいいです。
せっかくウイルスも頑張って抵抗してここまで来たわけですから、しばらくはいたいんですよね、きっと。
流されないように頑張ってるわけだから、それくらいは許してやると。
その間はとにかく脱水にならないようにしておけばいいのです。
下痢、嘔吐のときの飲食と薬
昔のお医者さんには下痢の時は絶食しなさいと言う人が多くて、
中には水分もダメと言われることもありましたが、そうすると脱水になります。
今は、普通に食べた方がいいということになっています。
下痢がひどい1日くらいは少し柔らかいものにした方がいいけれど、
柔らかいものばかりだと腸が活発に動かないから、二日目くらいになったらほぼ普通のものを食べてもいいだろう
ということになってます。
下痢止め薬は、小児科医はほとんど使わなくなっていると思います。
ロペミンという薬がもっぱら使われていたんですけど、これは特に3歳以下は禁止のような状態です。
一番下痢止めが良くないとわかったのが、20年くらい前にO-157という大腸菌が流行した時です。
あの時、下痢止めを使った子が重症になってしまったのです。
O-157は毒素を出す菌で、下痢止めを使うと毒素が体に長い間留まって体中に回ってしまって、重症になるのです。
そういうことで下痢止めは良くないということになって、
また下痢というのは胃や腸が一生懸命ウイルスや細菌を出そうとしているのだということもわかって、
下痢は止めないということになりました。
吐いている時も、水分は取った方がいいです。
ただ普通にコップでガブガブ飲むと刺激になって吐くこともありますから、お猪口で一杯ずつ飲めと言われています。
少量ずつを5分おきにすするように飲むといいですね。ちょびちょび飲んでいけば、だいたい体に入ります。
吐いてしまったとしてもある程度吸収されますから、吐いてるから何も飲ませないということはしないほうがいい。
少しずつ入れるということをしておけば、脱水になるということはなく、
あとは吐いたり下痢をしたりすることで大体のものは自然に治ります。
以前は、吐き気止めを飲めないから座薬をということで使われていましたが、吐き気止めの座薬は脳に影響します。
滅多にないけどふらついたりすることがあるんですね。だからあんまり良くないということで、使わなくていい。
脱水になったら点滴をすればいいので、吐き気止めもあまりいらないということになりました。
つづく
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医師:山田真(ワハハ先生)
東大医学部卒。小児科医として約50年診察を続けている。八王子中央診療所所長。
「子どもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク」代表、
育児専門誌「ちいさい・おおきい・よわい・つよい」編集協力人。
「自由に生きる、笑って生きる」をモットーに、親しみやすい町医者として、
子育て中の親の強い味方。
『初めてであう小児科の本』『小児科BOOK』『子どもに薬を飲ませる前に読む本』
『育育児典』『はじめてのからだえほん』など、育児書から絵本まで著書多数。